上の2つのような問題はある程度アプローチが見えていますが、実際にはそのような問題は多くありません。実際の問題の多くは、文章読解や会話の理解が求められます。
例えば、以下のような問題があります。
次の会話の に入れるのに最も適当なものを一つ選べ。
Zack: It's already ten. We'd better be going when Bob comes back from the restroom. Shall we split the bill equally?
Koji: I'd rather not do that. I ate and drank a lot more than you two. I think I should pay more.
Zack:
Koji: That sounds fair.
① Calm down. You don't have to get so excited.
② How about asking for a discount?
③ I wish I'd brought the coupon from the magazine.
④ Should we ask for separate checks?
(2009年度センター試験 英語)
この問題を日本語に訳すと以下のようになります。
次の会話の に入れるのに最も適当なものを①~④のうちから一つ選べ。
Zack: もう10時だ。Bobがトイレから戻ってきたら出た方がいいね。割り勘にしようか?
Koji: そうしない方がいいよ。僕は君たち二人よりたくさん食べて飲んだからね。僕は多く払うべきだと思う。
Zack:
Koji: それはフェアだね。
① 落ち着いて。そんなに興奮することないよ。
② まけてくれるように頼んでみる?
③ 雑誌からクーポンを持ってくればよかった。
④ 別々にお勘定してもらおうか?
日本語訳を見れば、レストランに関する常識がある人であれば、簡単に答えが分かるでしょう(もちろん答えは④です)。しかし、なぜ④が正解なのでしょうか。これには論理的な説明をすることはできず、ただ「それが自然だから」としか言えません。
この問題は特別な読解能力を必要としているのではなく、英語で書かれた文章を正しく理解できているかどうかが求められています。ここで「正しく理解できている」というのは、日本語と同じように理解できているということですが、その中には「一般社会での常識を知っている」ことが含まれています。人間であればだれでも分かることを前提として、ちゃんと理解できているかどうかを試験しているわけですが、コンピュータにとっては「人間であればだれでも分かること」が分からないため、そこが逆に難しい問題になってしまいます。
今までの分析では、英語の問題はこのように人間の常識に依拠する部分が多く、効果的な解答方法はまだ見つかっていません。常識の問題は、今までの人工知能研究でも非常に難しいことが知られており、現在の多くの研究ではいかにこの問題を避けるかが一つのポイントともなっています。このプロジェクトでは、試験で出題される限られた範囲の中で、上記のような理解のしくみを考えていきます。今後、意味理解や常識がどのようなメカニズムで運用され、試験問題に解答しているのか、さらに分析を進めていきます。